まだ誰も知らない恋を始めよう

33 彼の眼差しに胸がざわめくわたし

 手引き書……それは兄が言っていた、アイリーン・シーバスが手を出した古代魔術の秘本に違いない。
 わたしとフィニアスは互いに頷きあった。


「何か思い当たることがおありのようですね?」

「まだ、そうかもの段階なんですが……
 専門的な解読者が居て、古代魔術の秘本を読んだのかも知れません」

「あー、それならね、読んだら試したくなるよね、分かるわ。
 あいつは張り切って、お兄さんにそれを掛けたんだ」

 他意はなく『試したくなる』『張り切って掛けた』と言うオルくんを、フィニアスが恨めしそうに見ている。
 


 犯人の名前が分かり、興奮していたベッキーさんも腰を下ろした。


「……ヨエル・フラウ本人は既に捕まり、魔力も喰われて、もう一生魔力は持てない身体にされました。
 あれは類いまれな魔力を持ち、人よりも優れていて。
 若くて、綺麗な顔をして……だが精神は邪悪だった。
 良くも悪くも皆が気にする存在で、そういう強くて美しい毒に惹かれて、奴を崇める……
 心に同様の闇を抱える人間は、意外と多いんです。
 結果、こちらが把握していた以上の若い生徒を粛清することになりました」

「ヨエル・フラウは世間でも有名でしたよね。
 彼が黒魔法士だったなんて知らなくて、魔力を失って教官を辞められたのだと聞いていました」

「……表向きの理由として、そう処理するしか無かったんです」



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