まだ誰も知らない恋を始めよう
「メイトリクス、ジャック・メイトリクスだよ。
 変身するしか能がなくて、他の魔法はポンコツだった。
 あいつのくせー臭いがぷんぷんしてる」

「メイトリクス! あいつの仕業か!」

 思わず、といった風でベッキーさんが立ち上がった。
 これまで見せなかった興奮で、握った拳まで振り上げ、勢いを付けて振り下ろしている。


「そうか、メイトリクス……やっと尻尾を出したか、メイトリクス……」 

 その名前を何度も口にして、拳を上げる熱い姿は、まさしく女傑だ。


 フィニアスもわたしも、そんな彼女を見上げるばかりで、オルくんが楽しそうに説明してくれる。


「メイトリクスは、外れの親玉だったスピネル、本名はヨエル・フラウと言うんだけどさ、そいつの使いっ走りをさせられてた奴でさ。
 大した魔力の無い2流の魔法士だったんだけど。
 2年前に学院内のスピネルの一味を粛清した時に、唯一の取り柄の変身魔法で逃げ切ってさ。
 あいつがこんなに複雑な魔法を、お兄さんに掛けられたのは……
 多分だけどさ、他の外れが絡んでいるか、もしくは手引き書でも、あったんじゃないかな」
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