まだ誰も知らない恋を始めよう
 ベッキーさんの立場では、そう言うしかないのは分かっている。
 けれど、いつまで待てばいいのか……
 1日でも早く、シーバス一味が逮捕されるよう祈るしか、わたしには出来ないのかな。



 フィニアスと共に御礼を言って帰ろうとしたら、満面の笑顔でオルくんがわたしに駆け寄り、握手を求めた。


「お姉さん、これからも嫁のこと、よろしく頼むね。
 それと……」


 そこから先は、フィニアスにも知られないよう、わたしにわざと読み取らせたのだろう。

『読めるんだろ』『これを使え』『早くしないと』それから……

 ニヤリと悪い笑いを浮かべて、彼は差し出したわたしの手に、小さな紙切れを握らせた。



 学院を出て、50メートル以上離れてから、フィニアスが話し出した。


「ダニエル、あの子のあの目、見た?」

「『魔力喰ってやる』の、時の?」

「……うん、あの時の、あの目」

「あれがまさしく、だね。
 クズにも見せてやりたいね」

「ほんと、ほんと」


 あのクズ間抜けにも、見せてやりたい、と思った。
 その場で臆病なニールなら失神するかもね、と2人で笑った。
 ようやく緊張が解けて結構長く笑い合ったので、歩きながら1人で笑っているわたしはおかしな女に見えているだろうけれど、構わなかった。


 あの金色の瞳。
 この先どう育つのか分からない獰猛さを秘めた、幼い狼の金色の瞳。


「俺がそいつの魔力喰ってやるよ。
 そしたら、俺が解術してあげられる」

 あれを言った時のオルくんのあの瞳の輝きが、本当の『金色に光った』だ。


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