まだ誰も知らない恋を始めよう
「この門扉……もだけど。
 門柱の上には、同じ大理石の鷲が止まってるし、ここからでも女神が水瓶を抱えてる噴水が見えてる。
 屋敷と言うより、まるで宮殿だね……」

 左右から鷲が見下ろす正門前に、ホテルの庭園から徒歩で来た俺とダニエルは立って、中を覗き込んだ。
 まるで宮殿だと感想を言って、ダニエルが笑う。


「森を抜けてきたお客様がよく来るから、こんなに外見がゴツくなっただけで、家の内は普通だから」

「……普通ね、なるほど」

 あまり信じて無さそうにダニエルが言うので、俺の方こそ笑うしかない。
 警備員のビリー・ジョンソンが俺達2人に気付いて、詰所からこちらに向かって歩いてきた。


「今日の警備はジョンソンだ」

「了解」

 俺がビリーの姓を教えると、ダニエルが小さな声で返事をした。


「困ります、お客様。
 こちらは個人の邸宅となっております。
 立て札をご覧になられましたか?」

「こんにちは、ジョンソンさん。
 わたくしはマッカーシーと申します。
 事前のお約束はいただいていませんが、奥様にお目通りをお願いいたします」


 そう言ってダニエルは、初対面のビリーの名前を呼び、にっこり笑った。

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