まだ誰も知らない恋を始めよう

37 油断ならない実家と緊張する彼女

 俺が教えたのでダニエルが名前で呼び掛けると、ビリーの表情が緊張に変わった。

 警備員の制服には名札は付いていないのにも拘らず、何故初対面の女性から自分が名前で呼び掛けられたのか、理解出来なかったからだろう。


「あんた、何者だ!?」

 ビリーは声を尖らせ、腰の警棒に手を添えた。
 門の内側に彼は立っているのだが、若い女性なら門扉を挟んでいても大柄な警備員に構えられて、大声で誰何されれば、それだけで怖がるだろうと思って、それで済ましているのだ。

 侵入者が男だったら、犬笛を吹いて番犬達を呼んでいただろう。


「フィンが教えてくれましたよ。
 今日の門番警備はジョンソンだよ、って」

「あぁ? ……坊っちゃんが?」


 はぁ……ビリー、坊っちゃんは止めて欲しかった……
 ビリーは俺が幼い頃からウチに居るから、未だに俺を坊っちゃんなんて呼ぶからな。
 でも、まぁ仕方ないか。


「フィンについて、奥様にお話ししたいことがあります。
 お取り次ぎ、お願いいたします」

 
 ダニエルが前に1歩出て、左手の甲をかざす。

「先週、ペンデルトン夫人の指輪だとフィンからプレゼントされました」と微笑みながら伝えた。
 ダニエルの薬指に嵌めた指輪を見て、もう一度ダニエルの名前を確認してビリー・ジョンソンが走って行く。

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