まだ誰も知らない恋を始めよう

39 ポルターガイスト現象を起こす俺

 俺が見えるダニエルは、そんな真似をした俺に呆れていたが。
 飾られていた花瓶が突然落ちて割れた事に驚いた母とグレンダは手を取り合って、俺の方を呆然と見ている。


 見えない俺に気が付いて欲しくて騒音を立てるのは、あの悪魔祓いをされてからはしなかったので、特に母の方は顔色を失っていた。


「ま……また、悪……」

「悪魔ではありません。
 彼です、フィンが怒って落としました。
 ……奥様なら、ご存じのはずでしょう?
 ご子息は異性からの甘言なんかに、簡単に騙されるような人じゃありません」


 もうダニエルは震えて緊張なんかしていない。
 真っ直ぐに母を見ていた。



「彼は今この部屋に居て、花瓶を落としました。
 言葉では伝わらないので、こうして存在をアピールするしかないんです。
 先週の月曜日に行われた悪魔祓いの時も、火曜日に招かれた霊能師の時も、フィンは奥様の隣に居ました。
 どちらにも騙されている、と彼は奥様に何度も話しかけていました。
 ですが、彼の声はご家族の誰にも届かず……仕方なくフィンはわたくしに会いに来たのです。
 自分の姿は周囲の誰にも見えない、誰にも声は届かない、と」

「……そ、そんな……」

「戯言です! 信じては駄目です!お嬢様!」

 ダニエルの言葉に揺れる母を、我に返ったグレンダが叱咤した。
 だが、本人も自覚していないのだろう。
 母に対して奥様ではなく、昔のままのお嬢様と呼びかけた。


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