まだ誰も知らない恋を始めよう
「奥様はお優しい御方ですから、はっきり仰られませんから、わたくしが申し上げます。
 前々からマッカーシー様はペンデルトンの後継者であるフィニアス様を狙っておられたのでしょう?
 如何にもご自分は、フィニアス様の理解者であるかのような顔をして近付いて、どんな甘い言葉を囁かれたのです?
 フィニアス様にはその地位に相応しい女性をご両親がご用意されるのですから、世間知らずの坊っちゃんを騙して手に入れた、その指輪はお返しなさいませ!」

「グレンダ! 勝手に何を言ってるの!?」

 母が口出しをしてきたグレンダに、声を上げた。


 ダニエルが名前を告げて俺達が玄関ホールで待たされた1時間の内に、親父がウチの調査部にダニエルや実家の子爵家の事を調べさせたか。 

 そして彼女の現状を、つまり母親が亡くなり、父親が不在にしてる事、奨学金で大学に通っている事等を調べ上げて。
 その結果、世間知らずな俺を騙した、と?


「勝手に何をって、奥様。
 坊ちゃんの考えが甘いのをいい事に騙したに違いありません。
 うちの財産狙いのこの手の女には、はっきりと引導を渡してわからせなくては……」

 
 どれだけダニエルを貶める!?
 
 もう我慢出来ない。

 
 たかが母の侍女であるだけのグレンダが、立場を超えてダニエルを貶める途中で俺は立ち上がり、応接室の隅に飾られていた花瓶を落とした。


 それも手荒く、出来るだけ派手に割れろ、と怒りを込めて。
 床に叩きつけるように。
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