まだ誰も知らない恋を始めよう
 そうだ、わたしの能力を知られないために。
 わたしにフィンが見えるのは恋人だから、とご両親には説明をして。

 案の定、その理由にペンデルトン氏は微妙な感じだったが、夫人の方は感動したように目を潤ませた。


 そうだった、わたしは彼の恋人で。
 明らかにわたしの姿勢や動作で、フィンと抱き合っているように見えているだろうから、それ風に見えるようにしないといけなかった。


「またね……愛してる、フィン」


 ごめんね、気持ち悪がらないでね、と心の中で謝りながら彼に告げると、フィンが笑いをこらえた表情で、赤面していた。
 ほんと、ごめん、申し訳ない。


「俺も、愛してる」


 いやいや、貴方の言葉は聞こえないんだから。
 そこは合わせなくてもいい……と言うか、合わせないで。


 これはそう見せるため。
 わたしが貴女の恋人なんだと思わせるため。


 わたしは中々離れてくれない彼の胸を軽く押しやって、お別れをした。
 このままで居たい、なんて想いを引き剥がすように。



「もう、行かなきゃ」

「わかった、気を付けて。
 ケーキ売って売って、売りまくって」


 次にいつ会えるのかは、約束しない。


 
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