まだ誰も知らない恋を始めよう
 叔母から言われた通り、今のわたしは眼鏡を外している。 
 でも、ここに来るまでは、眼鏡を掛けていた。
 それは多くの人が行き交う街で、他人の悪意を読みたく無かったから。


「そうです、そうでした!
 昨日も眼鏡を外していました。
 裸眼で、魔法学院とフィンの家へ行った」
 

 兄に小綺麗にしろ、と言われて。
 赤毛のベッキーとロジャーに、舐められないように。
 
 でも、それ以上に。
 彼に会うから。

「君の瞳はすごく綺麗で、隠しているのが勿体ない」と言ってくれた彼に。
 フィニアス・ペンデルトンに会うから。

 彼に少しでも綺麗だと思って欲しくて、昨日は眼鏡を掛けずに出掛けたんだ。


「……思い出しました。
 わたしは眼鏡を掛けていなかったのに、目の前の彼のご両親からは悪意なんて少しも感じなかった。
 心を読んだからではなくて、おふたりの様子を見ていて、本当に彼を心配していたんだと分かったんです」


 昨日の事を思い出しながらポツポツと話しだすと、叔母は握る手と反対の手で、わたしの手の甲を励ますように優しく叩く。


「貴女の力はメイトリクスの悪臭を嗅ぐ事は出来無いけれど、考えている事は読み取れる。
 つまり、彼のご両親はどちらもメイトリクスではない、正真正銘のご本人ね」

「よか、良かった……」


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