まだ誰も知らない恋を始めよう

50 そして途方に暮れるわたし

 フィンのご両親のどちらかが、メイトリクスの手に掛かって、既に成り替わられているのだとしたら。

 その可能性がある事を早く彼に伝えなきゃ、と部屋を飛び出そうとしたわたしは叔母に手を掴まれた。


「どうして、人って恋をすると冷静じゃいられなくなるのかしらね?」 

「ふざけないで、お願い、お願いします! 離して!」

「わたしはふざけてないわ。
 落ち着いて、ダニエル」

 落ち着くように、と再びわたしに叔母が声を掛ける。
 その表情は穏やかなのに、掴む力が思いの外強くて、わたしは振りほどけない。


「フィンに会わないと!」

「まずは、落ち着いて思い出すの」

「何を!?」

「貴女、昨日ペンデルトンご夫妻に会った時、いつもの眼鏡は外していたの?」

 眼鏡? ……いつもの?
 急がなくてはならないのに、引き止められたイライラで何を言われたのか素直に聞けずに、叔母の顔を睨むだけのわたしだったけれど。

 反対に凪いだ瞳の叔母に見返されて、言われた事がゆっくりと、本当にゆっくりとだけれど、理解出来た。


「昨日はわたし、眼鏡を」

「以前のダニエルは、わたしの前でもずっと眼鏡を掛けていたのに、今日は掛けてないな、もう隠さなくても良くなったのかな、と思っていたのよ」
 
 
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