まだ誰も知らない恋を始めよう
 さっきはわたしを引き止めた叔母は、今度は早く立て、とわたしを引っ張り上げるけれど、迷うわたしは動けない。


「多分、貴女が動けないのは、ペンデルトンみたいな大物を巻き込むとどうなるか分からないと言う、モーリスの特務に関する懸念があるからでしょ?
 貰ったあの子からの手紙には、当たり前だけれど仕事内容は書かれていないから、わたし達のこの行動がモーリスの仕事にどう影響するのか、分からない。
 でも、モーリスにはそれが分かっていて、書いていたわ。
 ダニエルから話を聞いたうえで協力をお願い出来るのなら、私の仕事の事はお気になさらずに、フィニアス・ペンデルトンの命を最優先に考えてください。 
 もし馬鹿な妹が、私を慮って動けなくなっているようなら、行きたい方へ進め、と背中を押してください、って。
 ……あのお兄ちゃんは、本当に妹に甘いのよね」


 叔母への単なる挨拶だと思っていた兄からの手紙に、そんな事が書かれていたとは知らなかった。
 わたしから話を聞くよりも先に、叔母は手紙で、兄からのお願いを読んでいた。


 わたしは何も知らなかった。
 何も知らなくて、過保護で口うるさくて、鬱陶しく思って……
 ごめん、ごめんなさい、兄さん。
 

 次に顔を合わせた時は、もう少し素直になります。
 

 だから……馬鹿な妹は、今回も遠慮なく甘えさせて貰います。
 行きたい方へ進みます。

 ごめん、お兄ちゃん。 

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