まだ誰も知らない恋を始めよう

52 切り込まれて敗走する俺

 俺が今までのガキくさい反抗心とちっぽけなプライドを捨てて、父に助けて欲しいと申し出た夜。


 夕食後に母からこれまでの経緯を教えて欲しいと頼まれていたので、食事を終えた両親と合流して3人で父の書斎へ移動した。
 

 因みに夕食は、俺の分だけ書斎に届けて貰うように事前に父に頼んでいた……と言うのも。
 ダイニングルームには事情を教える使用人だけを出入りさせるから、貴方は何も気にしなくて大丈夫、と母から一緒に食べようと誘われたのだが。
 慌てて、俺の事を話すのは料理長だけにして欲しい、と止めた。


 だって、そうだろう?  

 最近の母の様子は、周囲から見たら危ない人だ。
 普段からフラフラしてる大学生の息子が帰ってこないと1人で騒いで、悪魔祓いで邸中に聖水を撒き、霊能者を呼んで大金を散財し、そのまま部屋に籠もり、今日は出てきたと思ったら客が来ているにも拘らず応接間で暴れた(母本人が、わたくしが暴れた事にしましょうと言った)。 

 そんな人が「姿は見えないけれど息子が帰ってきた」と言い出して、夫婦2人だけの夕食に、息子の料理も並べるように申し付けてくる。
 
 これでは、もう奥様は壊れ始めているのかも、と思われても仕方が無い。
 皆が皆、俺の事情を理解してくれる訳じゃないしな。


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