まだ誰も知らない恋を始めよう
「先に、レディ・アリアと母方の従姉? のレディ・ヴィクトリア・メルヴィルには、僕からはご挨拶はしたけれど、ステラはまだだからね、迎えに来たんだけど。
 彼女、化粧室に行った?」

「え、えぇ……入っていくのは見ました」

「メイクを直してるのかな、まだ会ってない?」

「……わたしもこれから、彼女と話したいと思ってて」

「へぇ、そうなんだ、何の話をするのかな?」

 ……何だろう、この感じ。
 最初、愛想良く感じた彼の笑顔が、徐々に何だか笑っていないように見え始めた。

 悪意とまではいかないから、彼が思っている事は読めないのだけれど、冷え冷えとしたものに変化しつつあるのが、手に取るように分かった。
 ロジャー・アボットは、わたしと対峙する内に機嫌が悪くなり始めている。


 だったら、無理に話さなくてもいいのに。
 私の事なんか放っておいて、化粧室の前でステラが出てくるのを待てばいいのに。

 それでも、彼はいかにも楽しそうにわたしに話し続ける。


「昨日、ステラにプロポーズしたんだ。
 彼女には、自分がペンデルトンの末席に居る事は隠してた。
 何故だか、分かる?」

「……さぁ」

 分かる? とロジャーは尋ねるけれど、わたしの答えなど求めていないのは分かる。


「同じ大学なんだから、フィニアスの事は知ってるよね?
 彼みたいな従弟が居るとね、なんかそれ目当てで寄ってくる女の子達も多くてね。
 だから、本気になったステラには黙ってた」

「……」

< 242 / 289 >

この作品をシェア

pagetop