まだ誰も知らない恋を始めよう
 言った瞬間に後悔した。
 余りにも、簡単な告白になったから。


 もっと言いようはあっただろうに、告白され慣れているフィンも驚いて、わたしに何かを言いかけて、そのまま気を失った。

 
 ずっと彼が見えていたわたしには、倒れたのが見えていたけれど。
 同時に他の人からも彼の姿が再び見えるようになったのだろう。
 お祖父様が彼の名前を叫び、駆け寄って、抱きしめた。



 そこからは、全てがあっと言う間だった。

 意識を失ってぐったりした彼を、使用人達が温室から運び出して、自宅へと戻って行くのを見送った。

 ベッキーさんがメイトリクスを抱えて、今夜はこれで失礼しますが、後日検証の機会を必ず設けます、と言いながら姿を消した。

 アリア叔母様とペンデルトン氏は未だ戻らずで。

 わたしは温室に、1人で残り。
 痛くてたまらなかった、重いイヤリングを外した。

 
 これで、金曜日から今日までの、1週間にも満たない恋は終わった。
 明日からは、視線すら合わせて貰えない、すれ違うだけの関係に戻ってしまう。

 そう思うと、耳たぶよりも胸の奥が痛かった。


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