まだ誰も知らない恋を始めよう

63 これからはすれ違うだけの彼とわたし

 解術される直前のフィンに。
 最後の最後に、好きだと告白をしたのは、温室に向かう前(つまり解術する前)にベッキーさんがわたしに、わざわざ声をかけてくれたからだ。


「過去の文献で読んだのですが、多重魔法を解いた場合、高確率でその対象者の記憶は失われるようです。
 フィニアスさんが貴女を忘れる前に、言いたい事は伝えないと、後悔しますよ」

 フィンが記憶喪失……

 それで、わたしは決めた。
 フィン、貴方がわたしを忘れてしまう前に。
 

 これまで知り合いでさえなかった、と何度も思い出し。
 わたし達は違う世界の人間だ、と自分に言い聞かせ。
 彼が元に戻れば、同じ場所から同じ景色を見る事も無いのだから、と覚悟もして。

 けれど忘れ去られるのは……辛い。

 
 遠くからでも、多くの人に囲まれる彼を見て、それに気付いてくれた彼が手を振ってくれて。
 それ位の関係は続けて貰えると思ってた。
 それ位なら望んでも、罰は当たらない、と。



 人殺し、と罵られた気味の悪いわたしを受け入れてくれた御礼と、貴方を好きだと止められない想いを伝えたい。

 誰にも知られたくなくて、小さな声で早口で言った。


「今日まで本当にありがとう。
 わたしは、貴方が好きです」

 それが、あの最後の告白だった。 

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