まだ誰も知らない恋を始めよう
「付いて行けばいいのに。
 一緒に来てくれ、と言われたんでしょ?」

 そう煽るのは、ステラだ。
 ロジャーと婚約した彼女は、ペンデルトンホテルを辞めた彼と王都から離れる。

 ステラには言えないけれど、わたしはやはりロジャーが駄目になり、それを悩みながらフィンに告げると、俺の従兄だからって、我慢して付き合わなくてもいいよ、と呆気なく言われて、彼とは顔を合わせなくて済んでいる。


「一緒に来てくれ、じゃなくて、一緒に行かない? って誘われた感じかな」

「ロジャーは、苦労はさせないから、一緒に来てくれって、わたしに頭を下げて言ってくれたわ。
 そんな軽い感じで言うなんて、フィニアスは男らしくない」
 
 男らしい、って何?
 何でも、俺に任せろ的な?
 フィンは、いつでも何でも、自分よりもわたしの希望を優先してくれるけど、それって、なかなかの男じゃない?
 

 だって、帝国語を話せないわたしが付いて行ってどうするの?
 仕事もない、知り合いも居ない。
 フィンしか居ない毎日は、きっと私を追い詰める。
 そんなわたしの所に戻ってくる彼もきっと。

 知らなくてもいいものまで知ってしまう、マッカーシーの力が、わたしは怖いのだ。
 

「会えない時間が愛を育てる、ってよく聞くよね」

「知らないわよ、そんな綺麗事。
 離れちゃ駄目よ、信じられないくらい、フィニアスはモテるんだから。
 側に居て、わらわら湧いてくる帝国ガールズ達を蹴散らさなきゃ」

 大学で結成されていたペンデルトンガールズは、わたしが指摘して、初めて気付いたフィンによって即時解散となったけれど、あちらでも……
 湧いてくるね、多分。


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