まだ誰も知らない恋を始めよう

最終話 それからの彼とわたし

 1年後、わたしとフィンは共に王都大を卒業した。
 わたし達は婚約をしていなかった。
 彼は何度も打診してくれたけれど、わたしは頷かなかった。
 

 何故なら、フィンは卒業後にはヒューゲルト帝国へ3年間行く事が決まっていたからだ。
 彼は帝国のインペリアルホテルでベルボーイから始めて2年間勤務する。
 その後は1年、グランド歌劇場でチケット窓口や座席案内の仕事をするらしい。

 
「早い話が、社長の肩書を得る前に現場でお客様の顔を見ろ、って事だね。
 クリスタルで、フレディがドアボーイから修行させられててさ。
 祖父はそれを真似たかったみたいなんだけど、今更だろ。
 こっちじゃ俺の顔も名前も知られているから、帝国へ飛ばされるんだ」


 フレディ・グラントの本名がフレデリック・ムーアで、将来のホテルクリスタルの社長になるのは、フレディ本人から聞いた。
 社長就任の日程が具体的に決まるまで、マスコミには秘匿された彼はグラントで通して、卒業後はそのままホテルに就職する。
 交際中の彼女にもそれは秘密にしているらしくて、何より驚いたのは、彼はジェリーの従兄だった事で(つまりジェリーもムーア一族だった!)それさえも、彼女に話していないらしい。
 だって、逃げられたら困るだろ、と話すフレディの笑顔がなんか怖かった。


 
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