まだ誰も知らない恋を始めよう

10 現実を思い知るわたし

 悪魔だと決めつけられて、お祓いをされてしまった話を聞いて
「事情は分かりました、じゃあ、また」とフィンを早々に追い出せなくなってしまったわたしは、夕食に誘った。


 王子様の舌は肥えているだろうけれど、彼は庶民の味方の第3カフェテリアを気に入っているみたいだし、まぁ、いいでしょう。


「あー、あの、お誘いはすごく嬉しいけど、他のご家族には何て言うつもり?」

「わたし1人だから、大丈夫」

「1人? ……でも、厨房とか使用人には何て言うの?
 君1人の食事に、2人分の用意をさせるのは……」

「だから、わたし1人なんだって。
 うちには料理長や使用人は存在してないから。
 わたしが作る簡単な夕食でもいいなら、遠慮せずに食べて帰って」


 わたしが鍵を開けて、家に入った事。
 帰宅したのに、誰も迎えに出なかった事。
 部屋に入るまで、わたし以外の誰の姿も見ない事。
 わたしにお茶も出ない事。 
 この応接室以外からは物音ひとつしない事。

 これらから、フィンは我が家が普通ではない、と気付いていなかったのかな。


 父はまだこの国には戻ってこないし、仕事に追われる兄は普段は王城の職員宿舎に住んでいて、めったに帰らない。 
 母は夢ばかり追って家庭を顧みない父に振り回された挙げ句に、亡くなった。

 貧しくて使用人も雇えない小さなマッカーシー家には、わたしが大学に入学し兄が出た3年前から、ほぼ1人で住んでいる。
 
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