まだ誰も知らない恋を始めよう
 そしてダニエルの兄上のモーリス卿は大学を卒業後に、王城で外務省の役人をされているが、こちらも……
 いくら邸の維持費を支払っていたとしても、仕事の忙しさを口実に使用人も置かずに未婚の妹に独り暮らしをさせているなんて、信じられない。
 

「これまでペンデルトンに足を踏み入れたことも無いし、これからも絶対に顧客にはなれそうもないから」とダニエルはあっけらかんと笑っていたが。

 現にモーリス卿は、何度かうちのホテルに来られている。
 まぁ、それは上司の供であり、接待も兼ねてなのだろうけど。
「君の兄上は先週も、うちのホテルで上司のシーバス氏とコースディナーを楽しんでおられたよ」と言いたくなった。(絶対に言わないけど)


 身勝手な家族からの皺寄せが、ダニエルひとりに集まっているように思えて、それこそ勝手に憤慨するあまり。
 あんな『御礼に好きなだけお金を渡す』みたいな傲慢発言をやらかした。


 その上、食費は自力で稼いでる、と聞いていたのに。
 絶対にダニエルからは『こいつ、全然話聞いてないな』と軽蔑されたに違いない。
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