まだ誰も知らない恋を始めよう
 何なんだろう、この感じ?
 ダニエルとは、今日の昼休みに初めて話して。
 まだ7時間しか、経ってない。


「貴方に運命を感じました」なんて、しゃべったこともない女の子から、わけのわからない告白をされた事がある。
 その時は、運命って何だよと思って、断ったが。
 だけど、今の俺はそれに近い想いを抱いてる。


 以前からダニエルの姿は知っていて、それに惹かれたんじゃないのは確かで。
 普通に、話してみたいと思っていただけだ。 
 それなのに、実際に話してみたら。
 直後から、いいな、しか無くて。

 俺の存在が見える彼女となら、握手も出来ると分かって嬉しくなって、不埒にも抱きついてしまったり、耳元で囁いたりして怒りを買ってしまったけれど、怒ったり焦ったりするのも可愛いく見えた。


 何故ダニエルだけに、俺が見えるのか?
 その理由は、まだ分からない。

 だけど、これこそが運命じゃないか?
 ……なんて思う俺は、こんな状況なのに浮ついてしまう。

 
 これから、もっと彼女に近付いて。
 俺を、男として意識して貰いたい。



 オムニバスの2階席で、夜風に吹かれて。
 夜景を眺めながら、俺は決めた。
 
 次にここに乗るのは、ダニエルとふたりで。 
 それまでは、2階には上がらない。


 俺の、周囲の誰からも見えない、誰にも知られない恋が始まった気がした。
 
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