まだ誰も知らない恋を始めよう

14 贅沢は敵と己を戒めるわたし

 土曜日の17時過ぎ。
 早番の仕事を終えて、お店の裏手の従業員出入口から出ると、昨日と違う服装のフィニアスが立っていた。
 毎日、自宅で密かに着替えているのは、嘘じゃなかった……
 

「どうしたの?
 約束は明日じゃなかった?」

「そうなんだけど、これから予定あった?」

 これから帰るだけのわたしには、何の予定も無い。
 シーズンズ前のバス停からバスに乗って帰って、簡単な夕食(帰り際にベイカーさんからいただいた試食の新作フィナンシェ3種)を食べ、勉強して、就寝前に体を拭いて寝るだけ。


「予定なんて無いけど、図書館で何か分かったの?」

「分かったというよりは、昨日から気になってる事もあるし……
 何も無いならさ、今日も夕食をご馳走してくれないかな?」

 昨日から気になってる事?
 もしかして、彼もわたしと同じ事が気になってるのだろうか。

 それでも、
「うちで食べるより、ホテルの厨房で食べた方がお……」美味しいんじゃないかな、と言いかけているのに、 
「じゃ、行こう」と彼に手を引かれて歩き出す。

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