まだ誰も知らない恋を始めよう
「期待の星の貴方のスキャンダルにしたくないからでしょう?」

「いや、俺と言うよりペンデルトンの名前に傷をつけたくないのが正解だよ……
 ロジャーは俺の4歳上の従兄になるけど、実は血は繋がっていないんだ。
 彼は叔母が結婚した相手の連れ子で、物心付く前の再婚だから、歳が近い俺達は同じ環境で育ってきた。
 それなのに成人してホテルで働き出すと、ロジャーへの扱いも変わってきたらしくて」

「本人から聞いたの?」

「あぁ、いつだったか、何処でだったか、よく覚えていないけど……
 2人だけで食事をした時に、ロジャーが愚痴っていたことがあったんだ。
 血縁じゃない俺はペンデルトン一族の中では、居ないように扱われる、って」



『居ないように扱われる』

 それは、まるで誰からも見えていないみたいに?

 
 2人だけで食事をする位に、大人になっても仲の良かった従兄を疑ってしまう自己嫌悪からか、フィニアスは大きなため息をついた。
 
 一族経営の中で、血縁では無いからと冷遇されるようになったロジャーとは違い、フィニアスはペンデルトンのサラブレッドだ。
 まだ26歳の社長はマスコミ受けもいいだろうし、王都中の注目を集め、ペンデルトンは何かと話題になるだろう。
 
 歴史はあるが、クリスタルと比べて古いとも揶揄される老舗ホテルの新しい顔に相応しい、優秀で若くて美しい彼はホテルのイメージ刷新に貢献出来る。

 側近は信頼できるブレーンで固めて、実情彼等が若社長の手綱を上手く握れば、経営は盤石で心配無いものね。 
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