まだ誰も知らない恋を始めよう
 彼の行状についての黒い噂はキャンパス中に広まり、やがて大学内だけじゃなく、親世代や王都中にホテルペンデルトンの後継者の乱れた日常が知られるようになれば。
 彼は、利用価値の無くなったステラと別れて……そうだ、きっと最初からそのつもりで。
 自分がフィニアスの従兄だと教えなかった、とも考えられる。


「今のところ、犯人はロジャーとしか思い当たらない俺は、最低な奴だと自分でも思うけど……」

「貴方を同じ目に遇わせたくて……
 何の手段を使ったのかは分からないけれど、貴方の存在を消したのかも」

「……言い訳にしかならないけど、これだけは聞いて欲しいんだ。
 他の一族の奴等がどうだか知らないけど、少なくとも祖父も父親も決してロジャーを冷遇してたようには、俺からは見えなかった。
 確かに経営陣では無かったけど、ロジャー本人が希望していた総務部での内勤だったし。
 問題さえ起こさなければ、人より早く出世しただろうし、ゆくゆくは部署のトップにだってなれただろう。
 叔母も義理の叔父も、それには納得していたし、本人が現在の待遇や将来のポストを不満に思っているなんて、想像もしていなかったんだ」
 

 誰も見てくれない。
 誰にも声が聞こえない。
 誰とも触れあえない。


 自分が居ないその場所を、フィニアスはその場に居るのに見続けるだけ。

 
 何故なら、フィニアスは。

『居ないように扱われる』見えない存在にされたから。
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