まだ誰も知らない恋を始めよう

18 優しい手と眼鏡を外すわたし

 休日のオムニバスは結構混んでいて、わたし達はまた1階で並んで立つことになったけれど、フィニアスはすこぶるご機嫌で。

「君にクソだって言われた時の……あの間抜け顔見た?」とやはり耳元で囁く。
 大好きな2階席でもないのに、この満面の笑顔は余程バスがお気に召したみたい。


 家に帰ってから、あの男との遭遇など無かったかのように、2人ではしゃいで料理の下ごしらえをした。
 
 買ってきた牛肉を、ニールに見立てて
「クソ間抜けのコーリング!」と薄くなるまで叩き、ハムを乗せて巻いて。
 それから小麦粉やパン粉をこぼしながら、付けて。
 少なめの油で衣を付けた肉を揚げ焼きして、トマトとバジル、黒オリーブを細かく刻んだソースを添えた。 


「安い肉でも、こうすりゃ美味い!
 今夜は、見た目がゴージャス!」と2人で気分を盛り上げて食べた。


 ……貴方はきっと、わたしを元気づけようとしてくれたんだよね?

 フィニアスは、自分からは聞き出そうとはしないけれど。
 今まで隠していた事も、聞いて貰わないといけない。
 
< 65 / 289 >

この作品をシェア

pagetop