まだ誰も知らない恋を始めよう

25 無自覚な彼に動揺するわたし

 当時の記憶を失くしているフィニアスの心からは、兄でさえも何も見えないらしい。
 取り敢えず身体が消えるまでの経緯を覚えているところまで、フィニアスに話して貰う事にした。


「先週の日曜日の19時から、大学の友人に誘われて彼の親戚がオーナーを務める画廊のオープンニングパーティーに顔出しをしました」

「その画廊の場所と友人の名前は?」

「はい、場所はセントラル大通り、セントラル駅から徒歩5分の『ブリリアントアート』です。
 友人の名前はフレディ・グラント。
 彼とは大学で知り合いましたが、唯一と言っていい位に信用している友人です」

「……フレディ・グラントか」


 フレディの名前を聞いて兄はしばらく考えていたけれど、フレディ・グラントがフィニアスが大学で唯一信用している友人と言うから、わたしは驚いた。

 フィニアスと同じ経済学部のフレディ・グラントなら、わたしも知っている。
 フィニアスとよく似たタイプで、彼も知り合いが多い。
 何故か、去年から顔を見れば挨拶をされるようになったが、それがどうしてなのか理解出来ず。
 わたしにとっては、悪意は無いが本音の見えない人、と言う印象だ。

 
 大学構内で時々見掛けたフィニアス・ペンデルトンは。
 いつも大勢の友人を引き連れて、美女揃いのガールズ達に囲まれていた。
 けれど、そんな人気者のフィニアスが心を許していたのは、たったひとり。
 それも大学に入学してから知り合ったフレディだけだったなんて。
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