キミしか視えない
ツユ様(前編)
キリトの絵をアップで。

ナレ「metuber キリト、それは一年前に颯爽とmetube及びオカルト界に出現した、謎のイケメン霊能者だ。唯一分かっているのは彼が現役高校生であるということだけで、そのミステリアスさがsnsで話題を呼んだ」

「ビジュアルが良いのはもちろんのこと、彼が行く先々では必ず心霊症が起こること間違いなしで動画の取れ高も上々。オカルト界でコラボしたいmetuber ナンバーワンにして、未だ誰ともコラボをしたことがない、まるで存在そのものが都市伝説だと言われている」

優希「撮影頑張ってね」

キリト「うん」※ニコッと微笑み、優希ママと共に二階に上がっていく。

優希(私もいまだに、桐人とキリトが同一人物だとは思えない)
(でも、桐人がキリトになったのは、うちの家のためなんだ)

○(回想) 一年前 ・優希の家・ナカ

リビングの机でパソコンを開き、頭を悩ませる優希の父親。

優希パパ「うーん」

それを見ていた優希ママが、パパにコーヒーを差し出す。

優希ママ「あなた、事務所のことは残念だけどもう諦めて違う仕事を探しても良いんじゃない?」

優希パパ「いや、この方向性で行けばきっとまたもちなおせるはずなんだ」

優希モノ『この時うちのお父さんの事務所は、開設当初から所属していた大物metuberの相次ぐ脱退を受けて経営が破綻寸前だった』
『そこでお父さんは昨今の流行りや自分の趣味で人より詳しいことに自負があるオカルト分野に特化した事務所にシフトしようと画策していたみたいだけど、事務所の目玉となるようなmetuberのスカウトに苦戦』

優希パパ「どこかに、ビジュアルが良くて、オカルト方面に明るい、華のある人材がいないものか」

リビングに入ってくる黒茅と優希。

黒茅のことを見て、「あ」と声を揃える、優希パパとママ。

優希ママ「桐人くん、ちょっとごめんね」

黒茅のうざったい前髪を左右に分ける優希ママ。

優希パパ「桐人くんって、幽霊とか不思議なものが視えるんだっけ?」

黒茅「一応、見えはしますけど」

優希パパ「これだ!!!」

優希モノ『かくして、桐人はキリトになって、うちの家計は救われたのだ』(回想終わり)

○優希家ナカ・リビング(夜)

ダイニングテーブルを、優希ママ、パパ、優希、黒茅で囲んでディナー。

机の上にはローストビーフをはじめ、手の込んだ料理が並んでいる。

優希「わぁ、美味しそう」

優希ママ「今日は桐人くんのチャンネル開設一年を記念したお祝いだからね! 張り切って作っちゃった」

黒茅「ありがとうございます」

優希パパ「こちらこそありがとう。桐人くんのおかげで事務所の経営も安定してるんだ。我が家1番の功労者だよ」

黒茅「いえ、元々居候の身ですし、少しでも皆さんのお役に立てたならよかったです」

優希ママ「桐人くんはもううちの子も同然よ」

優希「そうだよ、桐人」

優希パパ「ママと優希の言うとおりだ。さぁ、乾杯しよう」

優希と黒茅のグラフにだけノンアルの炭酸、ママとパパのグラスにはワイン。

それぞれがグラスを近づける。

一同「乾杯」

○翌朝・通学路

二人並んで歩く優希と黒茅。

あくびをする優希。

優希「ふぁあ」
「なんだか、ねむいね」

黒茅「昨日、遅くまでボードゲームしてたからね」

優希「ごめんね〜、パパが自分が勝つまでやるとか言いはじめちゃって」

人生ゲームで負けて駄々を捏ねる優希パパの回想絵。

黒茅「いいよ、楽しかったし」


優希「桐人かわいい〜!」

黒茅「僕は別に可愛くなんかないよ。本当に可愛いのは」

優希のことを見つめる黒茅。

優希「ん?」


黒茅「なんでもない」※頬を染めて目を逸らす

優希「そういえば最近学校で怖い話流行ってるよね」

黒茅「怖い話?」

優希「うん、それも学校の七不思議とかテンプレートじゃなくて、全く初めて聞くような怖い話」

黒茅「へぇ」

優希「しかも全部体験談ベースなの」
「桐人は平気? なんか怖い目にあってない?」※心配そうな感じで

黒茅「僕は平気。撮影でしょっちゅうやばいところ行ってるけど、なんともないの、優希も知ってるでしょ?」

優希「それはそうだけど」

黒茅「僕はそれよりも優希が心配だよ」

優希「え?」

黒茅「合唱祭の練習頑張りすぎじゃない? 伴奏だって本当はそんなにやりたくないデショ」

優希「う、バレてた?」

黒茅「優希はわかりやすいから」

優希「そうかな。私、よく何考えてるのかわからないって言われるけど」

黒茅「それは、その人たちが優希のことをよく見てないからだよ。僕にはわかるよ」※微笑む顔アップで

その顔を見て今度は優希が頬を染める。

○教室・昼休み

外の天気はどんよりとした曇り空。

優希、皐月、そして他の女子生徒二名と、四人で机を囲みランチをしている。

女a「ねぇ、ツユ様って知ってる? 雨の日の学校でね、一人っきりでいる時に、ため息をつくと、『憂鬱?』って話しかけてくる人がいるんだって。もしそれに一言でも何か答えてしまったら、ツユ様にあの世とこの世の狭間に連れていかれちゃうらしいよ』

優希「はぁ」

女b「あー、優希、連れてかれちゃうよ」※茶化すような感じで

女a「なにさー、私の話そんなつまらなかった?」※唇を尖らせて

優希「ごめん、そう言うんじゃなくて」

皐月「どした? 悩み事?」

優希「うん、実は今日も朝練に斉藤くんが来てくれなくて」

女a「あー、ソリストの人たちは朝練もやってるんだっけ?」

女b「大変だね〜、でもたしかに斉藤くんは朝練来るタイプじゃないよね」

優希「朝練来ないだけならまだしも放課後の全体練にも出てくれないし」


優希「私、斉藤くんと同じクラスになるのはじめてなんだけど、彼ってどう言う人なの?」

女b「一言でいえばモテ男? いつも周りに女の子侍らせて特定の彼女を作らないみたいな」

皐月「それはただのクズでは?」

女a「あは! 言えてるー! まぁ、そこが良いみたいなノリだよねー」

優希(斉藤くんどうしたら練習に参加してくれるんだろう)

どんよりとした窓の外を見つめる優希。


○放課後・廊下

練習が始まる前に帰ろうとする斉藤を優希が引き止める。

優希「斉藤くん、待って! 練習は?」

斉藤「ごめん、今日は他校の子とデートなんだ」

優希「でも」

指揮者の女の子が教室から顔を出す。

指揮者「優希、伴奏お願い!」

優希「あっ、うん」

場面は変わり、一人で廊下を歩く斉藤。

その前に黒茅がヌッと姿を現す。

斉藤「ひぃ!! な、なんだ黒茅か」※心底驚いた表情で

黒茅「嘘は身を滅ぼすよ」※ボソッとつぶやく感じで

斉藤「は? 意味わかんねーんだけど」

黒茅「それから、これ以上、優希のこと困らせたら許さないから」※睨む感じで

黒茅が去る。その後ろ姿を見送りながら。

斉藤「全くなんなんだよ。どいつもこいつも」 ※頭をガシガシとかく

○下駄箱

靴を履き替えている斉藤。  

外はさぁーと雨が降り始める。

斉藤「最悪、傘持ってねぇよ」
「走るか」

途端に滝雨になる外。

斉藤「職員室で借りるしかないな」

○職員室に続く廊下

大きなため息をつく斉藤。

斉藤(どうして俺がこんな目に)
(今日はキリトの動画のup日だから、家帰って早く見たいのに)

?「ゆううつ?」

斉藤「あぁ、あたりまえだろ? こんなところで道草食ってる場合じゃ」

「え?」

斉藤の真後ろに、女が立っている。

廊下に叫び声がこだまする。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop