キミしか視えない
ツユ様(中編)
○教室

教室では全体練習でみんなパートごとに整列し、前には指揮者、そして伴奏者がいる。

指揮者「じゃあ、今日はこれで練習終わり! おつかれ!」

ガヤガヤと解散するクラスメイト。

優希「なんか今叫び声聞こえなかった?」

廊下の方に目をやる優希。

指揮者「外の雨の音じゃない?」

優希(雨__そんな感じじゃなかったんだけど)

隣のクラスの子がやってきて、優希の教室を覗く。

隣のクラスの子「あれ、みのるいない?」

優希「みのる……」

指揮者「斉藤くんのことでしょ」

優希「あぁ、斉藤くんなら、他校の子とデートだって言って帰ったよ」

隣のクラスの女の子「えー、下駄箱に靴あったけどなぁ」

○廊下

黒茅「あ、優希。練習終わった? 帰ろう」

一人で歩いてくる優希に歩み寄る黒茅。

優希「今日、桐人、練習サボったでしょ」※問い詰めような感じで

黒茅「ごめん、トイレから戻ったら練習始まってたから」

優希「もう、途中からでも参加しなよね」

黒茅「ごめんって」※困った感じで

優希「そういえば斉藤くんみなかった? 練習サボったのにまだ学校にいるみたいなんだよね」

黒茅「それならさっき見かけたけど、流石にもう帰ったんじゃないかな」

優希「それが他クラスの子が言うには、まだ下駄箱に靴があるみたいで。だから、私、斉藤くんと話してから下校しようと思う」

黒茅「本当お人好しだね、優希は」

優希「だからもしあれだったら、桐人は先に家に帰ってても__」

黒茅「今日は特に予定はないし、付き合うよ」

優希「……ありがとう!」

黒茅「斉藤と優希を二人っきりにはさせられないしね」※優希には聞こえてない


○職員室前の廊下

二人並んで歩く優希と黒茅。

優希「なんか雨の日の学校って雰囲気あるね」

暗くてジメジメしておどろおどろしい雰囲気のある校舎の絵。

黒茅「そうだね」

優希「そういえば今日聞いた怪談に、似たようなシチュエーションの話があったような」


黒茅「へぇ、どんな?」

優希「たしか雨の日の学校で一人でいる時にため息をつくとツユ様ってゆうのが現れて、あの世とこの世の狭間に連れていかれちゃうとか」


黒茅「ふーん?」

優希「でも所詮こう言うのって作り話なんだよね」※無理やり笑顔を作ってる感じ

黒茅「そうでもないかもよ」

優希「え」

廊下に落ちていたスマホを拾い上げる黒茅。

黒茅「これ多分斉藤のスマホ」

顔を見合わせる黒茅と優希。

○校舎ソト・屋根の下

振り続ける雨に目をやる優希。

優希(大丈夫かな、桐人)

回想絵
黒茅『優希は外で待ってて。僕が戻ってくるまで中に入っちゃダメだからね』

優希(桐人はああ言ってたけど……無力だ。こういうとき視えない私にはどうすることもできない)

優希の真横で傘を開く男。

男「あれ、君、傘忘れたの? 僕のに入れてあげようか?」

顔が明らかになる。
そこにはキリトにそっくりの容姿・性格の男の子が目の前に立っている。にっこりと笑う男の顔アップで。

優希(__キリト?)

○どこかの廊下

あたりに人がいないことを確かめてからため息をつく黒茅。

廊下の空気が変わる。

?「ゆううつ?」

黒茅「あぁ。あいにく大切な人を待たせてるんでね」

振り返って、ツユ様の腕を掴む黒茅。

掴まれたツユ様は悲鳴をあげる。

黒茅「キミが連れて行った男、返してもらうよ」

○校舎ソト・屋根下

ズズズズッと物々しい音がする。

優希「何、この音」※不気味がって、キョロキョロとする

すると、意識を失っている斉藤を、引きずって歩く黒茅の姿が見える。

優希「桐人! と、斉藤くん?」

○(回想) 斉藤稔(小学生低学年) 通学路

斉藤モノ『昔からいじられキャラだった』

男a「おら、斉藤、持てよ!」

斉藤「なんで僕、勝ったのに」

自分のものの他に四つほどランドセルを持たされる斉藤。

男b「今回はじゃん勝ちのやつが持つんだよ」

斉藤以外の男子小学生の笑い声。

斉藤「あ、あは」※引き攣った笑い

斉藤モノ『いじられることでしか人と上手くコミュニケーションがとれなかった』

『中学に入ればきっとこんな理不尽なこともなくなる、そう思って毎日耐えてきた』

『それなのに』

○(回想) 斉藤稔(中学生) 教室

派手な一軍生徒、三人ほどがたむろする机の前に立っている斉藤。

男a「斉藤くん、自販機でジュース買ってきてよ♡」

斉藤「……お、お金は」※ビクついてる感じ

男a「付けで♡」 

男b「おまえ、絶対払う気ないだろ!」

周りの男子生徒が下品な感じで笑う。

その様子を見ている周りの女子生徒。

女a「あー、またやってるよ、斉藤くんいじり」

女b「でもなんかわかるかも。オドオドしててムカつくって言うか」

女c「もっとシャッキとしてればいいのにね」

斉藤モノ『中学に入ればみんな大人になって僕をいじることなんてなくなると思っていた』
『でもみんな何も変わらない』
『僕をいじる奴らも、僕がいじられるのを傍観している奴らも』
『それなら僕が変わるしかないと思った』
(回想終わり)
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