キミしか視えない
ツユ様(後編)
○教室・放課後
斉藤、床の上に寝かせてある。
優希と黒茅は椅子に腰掛けている。
優希「__ツユ様どんなだった?」
黒茅「雪女の髪を濡らした感じ?」
優希「へー!」
斉藤(__人の声?)
起き上がる斉藤。
優希「あ、よかった! 目、覚めた?」
斉藤「お、俺」
頭を押さえる斉藤。
黒茅「廊下に倒れていたところを僕がここまで運んだんだ」
斉藤「黒茅が?……ありがとう」※訝しげに
黒茅「僕の忠告通りだっただろう?」
優希「忠告?」
黒茅(まぁ、ただの偶然だけど。優希を困らすから、こういう目に遭うんだ。いい気味)
斉藤(そうだ、俺、職員室に傘を取りに行こうとしたところで__もしかして、黒茅の呪い?)※ゾッとした顔で
優希「斉藤くん」
斉藤「な、何?」※怯えた感じで
優希「これ廊下に落ちてたの」
斉藤にスマホを差し出す優希。
斉藤「! ありが__」
スマホを差し伸べる手を引っ込める優希。
優希「あのさ、どうして合唱コンクールの練習に参加しないのか教えてもらっても良いかな」
斉藤「!」
優希「ごめんね、卑怯なことは分かってるけど、私どうしても知りたくて」※ぎゅっと自身の胸前で片手を包み込むように握る
斉藤「っ、……」
黒茅「斉藤くん、僕には全部見えてるからね」
斉藤「何がだよ」
黒茅「キミの過去も今の偽りも全部」
斉藤「は?」
優希「あのね、桐人って昔からそう言うのが見える体質なの」
メガネを外して、前髪を上げる黒茅。
斉藤「あー! キリト?!」※黒茅のことを指さして
黒茅(やっぱり)
優希「え、斉藤くんキリトのこと知ってるの?」
斉藤「知ってるも何もオレ__」
黒茅の顔をアップで。
黒茅に正面から見つめられてどきっとする斉藤。
斉藤「__わかった、話すよ。オレが練習に参加しない理由」
斉藤「実は、俺、高校デビューなんだ」
「……中学までの俺は、今とは比べ物にならないくらい、地味で陰気で教室の隅にいるようなやつだった」
「そんなオレの存在理由はパシられることくらい」
「俺はそんな自分を変えたくて高校入学を機に昔の自分と決別を果たした。……でもそれは所詮見た目だけ。臆病な中身はまるで変わらなかった」
高校入学当初の回想絵。
派手な見た目のギャルが、席に座っている斉藤に絡んでいる。
ギャル「えー、斉藤稔くんって言うんだ」
斉藤「……あぁ」
ギャル「へぇ。クールな感じ? 唯の好みかもぉ」
場面は変わり、廊下に立つ斉藤の腕にべったりくっついている女の子の絵。
斉藤モノ『見た目を変えただけで、これまで俺を馬鹿にしてきたような類の女が嘘のように俺に擦り寄ってくる。気持ち悪くて、憎くて、吐きげかして。……でもそれ以上に怖かった。もし俺がニセモノだって分かったら、彼女たちの期待するような男じゃないってバレたら、俺はまた中学時代に逆戻りだ』(回想終わり)
斉藤「結局、俺は今も本質的に言えばあの頃と何一つ変わっていないんだ。笑っちゃうだろ?」
優希「そんなこと__」
斉藤「宇佐美さんみたいな人にはわかんないよ! 俺の気持ちなんか……」
黒茅「……わかる」
斉藤「え?」
黒茅「おまえに優希の何がわかる?」※射抜くような瞳で睨む
怯む斉藤。
黒茅「他人におまえが理解できないように、おまえも他人を理解できるわけがない。所詮、人が認識できる他人の側面なんてその人のほんの一部分に過ぎないんだ」
斉藤「……ごめん」
黒茅「謝る相手が違うんじゃないか?」
斉藤「宇佐美さん、ごめん」※優希に向き直って、気まずそうに
優希「そんな、私は別に」
黒茅「お前に一ついいこと教えてやる」
斉藤に顔を近づけるように言う、黒茅。
何を言ったのかは、二人以外にはわからない。
○合唱コンクール当日 会場
2-1流浪の民という演目が舞台上の目次に書いてある。
全体歌唱シーン。ソロのシーンのカット絵。
観客席拍手。
結果発表で優勝したことがわかるシーン。
ホールから出てきた2-1の生徒。
女a「マジかよ。うちらのクラス優勝とか笑」
女b「てか、みのる、めっちゃ歌上手くなかった?」
女c「あーなんか、練習にも真面目に参加してたっぽいしね」
女a「なんからしくないよねー?」
女c「あ、みのる」※ちょっと気まずそうに
彼女たちの横を通り過ぎる斉藤。
ニコッと微笑んでその場をさる。
女b「……うちはアリかも」※頬を染めて
女a「はー? 私も別にナシとは言ってないし!」
ガヤガヤとする女たち。
○会場ソト
黒茅「優勝できてよかったね」
優希「うん! これも斉藤くんのソロのおかげかな」
「……そう言えば、あの日、桐人、斉藤くんになんて声かけたの?」
「あの日からソリストの練習にも毎日参加してくれるようになったんだよね」
○(回想) 教室 放課後
斉藤の耳のすぐ横で囁く黒茅。
黒茅「人の顔色を伺うな。人に顔色を伺わせる気持ちで生きろ。外野がなんと言おうとお前はお前だ」(回想終わり)
黒茅「……大したことは特に何も」
二人のところに駆け寄ってくる斉藤。
斉藤「桐人くん!」
黒茅「今優希と仲良く二人で帰ってるの見てわからないかな?」
斉藤「ごめん、でも俺、自分がしたいように生きるって決めたから」※いい笑顔アップで
優希(あれ? なんか仲良くなってる? 桐人に男の子の友達ができたみたいです)
斉藤、床の上に寝かせてある。
優希と黒茅は椅子に腰掛けている。
優希「__ツユ様どんなだった?」
黒茅「雪女の髪を濡らした感じ?」
優希「へー!」
斉藤(__人の声?)
起き上がる斉藤。
優希「あ、よかった! 目、覚めた?」
斉藤「お、俺」
頭を押さえる斉藤。
黒茅「廊下に倒れていたところを僕がここまで運んだんだ」
斉藤「黒茅が?……ありがとう」※訝しげに
黒茅「僕の忠告通りだっただろう?」
優希「忠告?」
黒茅(まぁ、ただの偶然だけど。優希を困らすから、こういう目に遭うんだ。いい気味)
斉藤(そうだ、俺、職員室に傘を取りに行こうとしたところで__もしかして、黒茅の呪い?)※ゾッとした顔で
優希「斉藤くん」
斉藤「な、何?」※怯えた感じで
優希「これ廊下に落ちてたの」
斉藤にスマホを差し出す優希。
斉藤「! ありが__」
スマホを差し伸べる手を引っ込める優希。
優希「あのさ、どうして合唱コンクールの練習に参加しないのか教えてもらっても良いかな」
斉藤「!」
優希「ごめんね、卑怯なことは分かってるけど、私どうしても知りたくて」※ぎゅっと自身の胸前で片手を包み込むように握る
斉藤「っ、……」
黒茅「斉藤くん、僕には全部見えてるからね」
斉藤「何がだよ」
黒茅「キミの過去も今の偽りも全部」
斉藤「は?」
優希「あのね、桐人って昔からそう言うのが見える体質なの」
メガネを外して、前髪を上げる黒茅。
斉藤「あー! キリト?!」※黒茅のことを指さして
黒茅(やっぱり)
優希「え、斉藤くんキリトのこと知ってるの?」
斉藤「知ってるも何もオレ__」
黒茅の顔をアップで。
黒茅に正面から見つめられてどきっとする斉藤。
斉藤「__わかった、話すよ。オレが練習に参加しない理由」
斉藤「実は、俺、高校デビューなんだ」
「……中学までの俺は、今とは比べ物にならないくらい、地味で陰気で教室の隅にいるようなやつだった」
「そんなオレの存在理由はパシられることくらい」
「俺はそんな自分を変えたくて高校入学を機に昔の自分と決別を果たした。……でもそれは所詮見た目だけ。臆病な中身はまるで変わらなかった」
高校入学当初の回想絵。
派手な見た目のギャルが、席に座っている斉藤に絡んでいる。
ギャル「えー、斉藤稔くんって言うんだ」
斉藤「……あぁ」
ギャル「へぇ。クールな感じ? 唯の好みかもぉ」
場面は変わり、廊下に立つ斉藤の腕にべったりくっついている女の子の絵。
斉藤モノ『見た目を変えただけで、これまで俺を馬鹿にしてきたような類の女が嘘のように俺に擦り寄ってくる。気持ち悪くて、憎くて、吐きげかして。……でもそれ以上に怖かった。もし俺がニセモノだって分かったら、彼女たちの期待するような男じゃないってバレたら、俺はまた中学時代に逆戻りだ』(回想終わり)
斉藤「結局、俺は今も本質的に言えばあの頃と何一つ変わっていないんだ。笑っちゃうだろ?」
優希「そんなこと__」
斉藤「宇佐美さんみたいな人にはわかんないよ! 俺の気持ちなんか……」
黒茅「……わかる」
斉藤「え?」
黒茅「おまえに優希の何がわかる?」※射抜くような瞳で睨む
怯む斉藤。
黒茅「他人におまえが理解できないように、おまえも他人を理解できるわけがない。所詮、人が認識できる他人の側面なんてその人のほんの一部分に過ぎないんだ」
斉藤「……ごめん」
黒茅「謝る相手が違うんじゃないか?」
斉藤「宇佐美さん、ごめん」※優希に向き直って、気まずそうに
優希「そんな、私は別に」
黒茅「お前に一ついいこと教えてやる」
斉藤に顔を近づけるように言う、黒茅。
何を言ったのかは、二人以外にはわからない。
○合唱コンクール当日 会場
2-1流浪の民という演目が舞台上の目次に書いてある。
全体歌唱シーン。ソロのシーンのカット絵。
観客席拍手。
結果発表で優勝したことがわかるシーン。
ホールから出てきた2-1の生徒。
女a「マジかよ。うちらのクラス優勝とか笑」
女b「てか、みのる、めっちゃ歌上手くなかった?」
女c「あーなんか、練習にも真面目に参加してたっぽいしね」
女a「なんからしくないよねー?」
女c「あ、みのる」※ちょっと気まずそうに
彼女たちの横を通り過ぎる斉藤。
ニコッと微笑んでその場をさる。
女b「……うちはアリかも」※頬を染めて
女a「はー? 私も別にナシとは言ってないし!」
ガヤガヤとする女たち。
○会場ソト
黒茅「優勝できてよかったね」
優希「うん! これも斉藤くんのソロのおかげかな」
「……そう言えば、あの日、桐人、斉藤くんになんて声かけたの?」
「あの日からソリストの練習にも毎日参加してくれるようになったんだよね」
○(回想) 教室 放課後
斉藤の耳のすぐ横で囁く黒茅。
黒茅「人の顔色を伺うな。人に顔色を伺わせる気持ちで生きろ。外野がなんと言おうとお前はお前だ」(回想終わり)
黒茅「……大したことは特に何も」
二人のところに駆け寄ってくる斉藤。
斉藤「桐人くん!」
黒茅「今優希と仲良く二人で帰ってるの見てわからないかな?」
斉藤「ごめん、でも俺、自分がしたいように生きるって決めたから」※いい笑顔アップで
優希(あれ? なんか仲良くなってる? 桐人に男の子の友達ができたみたいです)