月が、綺麗だったんだ
「最後にね、俺はもっと甘えてほしかったって言われてさ。だよねって思った」


 若干冷たくなった風が、頬を撫でた。


 最後の最後で聞かされた本音。
 あんな環境で、どうやって甘えればよかったのか、皆目見当もつかないけど。


「甘えベタな私じゃ、ダメなんだなあって」
「ダメなわけあるかよ」


 琉唯は力強く否定した。
 急に遮られて、少しだけ驚いてしまった。


 琉唯の目は、まだ悲しい色をしている。
 その中に、ひっそりと怒りが潜んでいるような気がした。


「依茉はダメじゃない。そいつの見る目がなかっただけ」


 琉唯の言葉がストレートすぎて、なんだか泣きそうになってしまう。


 何枚もの絆創膏を貼って誤魔化していた心に傷に、それは酷く染みた。


「素直じゃないのも、甘えベタなのも、頑張りすぎるのも、全部、依茉を表すものじゃん。依茉からそれ取り上げたら、それ誰?って感じだし。てか、なにも残らなくね」
「……待って、貶してない?」
「バレた?」


 正直すぎる言葉に、思わず琉唯の左肩を叩いた。
 琉唯は痛がるフリをして、その姿に気付けば笑みをこぼしていた。


 こんなにも自然に笑えたのは、久しぶりだ。


「……依茉はさ、まだソイツのこと好きなの?」
「どう、だろう……違うと思う。ただ、四年って時は重いよ」


 空を見上げると、雲が流れ、月が顔を覗かせた。
 半月でも満月でもない、中途半端な形が、目を引く光で空に浮かんでいる。
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