虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
今回の企画に岳はかなりの情熱を持っているらしく、その勢いに真矢も影響されつつある。
ふたりが顔をあわせて交わすのは仕事の話ばかりだ。
食事をしていても、つい気になる進捗状況の確認だとか現地からの報告を共有するといった有様だ。
それでも梅雨が明けるころには、少しずつ関係が変化し始めた。
契約書では家のことは家政婦がすることになっていたが、真矢はどうしても岳の食事くらいは用意したくなったのだ。
仕事が忙しいからまた倒れたらと岳は心配するが、仲居の仕事に比べたら簡単なことだ。
それに「おいしい」と言って手料理を食べてもらえると、心がほんのり温かくなる。
(ああ、この人とずっと暮らしていけたら)
やりがいのある仕事と、心地よい岳との関係。
まるで神社で岳が手をつないでくれたときの安心感に包まれたような暮らしだ。
真矢は少しだけ夢を見始めていた。
婚約者というよりビジネスパートナーに近い関係だとしても、愛情よりお互いの利益だけを追求した契約であったとしても、真矢は岳との暮らしをを手放せそうにない。
(このままでいられたら)
契約書には「いずれ結婚する」とは書かれていたが「いつ」とは明記されていない。
対鶴楼の支援策がまとまって岳の父に提示したら、契約は終了になるかもしれない。
「これで終わり」と岳が決めたら、真矢は受け入れるしかない。
今の仕事以外に、真矢は岳にとって何の役にも立たない存在なのだ。
真矢は先のことを考えるのが怖くなっていた。