虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


真矢を不安にさせているのは、岳の本心がわからないことだ。
真矢のことを考えて、よくしてくれている。でも、それは仕事だけの関係だからだ。
華怜の車で送ってもらいながら、真矢は考え込んでしまった。

(岳さん、私のことどう思ってくれているのかな)

嫌いな相手に、こんな契約を持ち掛けるとは思えない。それなら愛されているかと聞かれても「はい」と答える自信はない。
倒れた時に看病してくれた優しい人、真矢を守るためだと言って、一緒に住んで仕事まで与えてくれた人。
感謝の気持ちは、いつのまにか恋に変わっていた。

けれどこのまま岳と仕事だけしていても、誰も認めてくれないのだと華怜に教えられた。
岳のそばにふさわしいと思ってもらえるように、仕事以外でも認められたい。

「華怜さん、お願いがあるんです」

真矢は自分から、ひとつ上のステージを目指す覚悟を決めた。

今日買った美しいドレスや、機能的なスーツ。それらは真矢を武装してくれるだろう。でもその前に、まず自分自身を磨くのだ。
華怜に連れて行ってもらったのは、美容室だった。そこできちんと髪の手入れをしてもらい、メイクも教えてもらった

真矢は岳が対鶴楼の援助を約束してくれたとき、そのお礼には仕事で応えようと思っていた。
だが今日、それだけでは足りなかったことに気がついた。隠していたはずの本心は、岳を求めている。

(岳さんに愛されたい)

その恋心が、今のままではダメだと気付かせてくれた。
もう対鶴楼の仲居ではない。正式な岳の結婚相手として認められて祝福されたい。

華怜のアドバイスもあって、これまで以上に輝きを増した髪は肩先でカットされ、とても軽やかな印象になった。
ほとんど化粧をしていなかった頬には淡い色味を足し、唇には艶やかなリップ。
薄いパールベージュのワンピースは、ほっそりした真矢のスタイルによく映える。

「上品なお顔立ちですから、濃いメイクは必要ありませんね」
「ほんの少しメイクするだけで、印象ががらりと変わりますよ」

美容師やメイクアップアーティストの言葉に華怜がうなずいている。
つまりお世辞ではないのだろう。

「このまま帰って、兄さんを驚かせましょ」
「はい。華怜さんありがとうございました」





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