虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます



岳は真矢を愛車に乗せた。
どうやら車は、銀座の明都ホテルに向かうようだ。ホテルの正面に着いた時には、もうすっかり日が落ちていた。
バレーパーキングだから、係のホテルマンがスッと近づいてくる。岳はキイを預けて先に降り、助手席のドアを開けてくれた。

岳が女性連れで現れたことで、ロビーからフロントにかけて緊張が走ったのが真矢にも伝わってきた。

「あの、プライベートでホテルを利用されることもあるんですか?」

小声で尋ねたら、岳は平然と答える。

「たまにはいいだろう。それに俺の婚約者のかわいさを見せつけてやりたいんだ」
「かわいいだなんて」

急にどうしたのだろう。岳の態度が仕事の話をする時と変わりすぎて、真矢はどう対応していいかわからない。

「さっき君の瞳を見てわかったんだ。やっと俺が一番になれたってね」
「え?」

「これまでは、対鶴楼に負けてたからな」
「そんなことは……」

否定しかけて、真矢は言葉を失った。

(そうだった)

祖父が亡くなってから対鶴楼の経営ばかり考えてきたし、父の生まれた家を守りたくて必死だった。
岳にもそう言い切った記憶がある。だから結婚の契約を交わしてからも仕事の話ばかりしてきた。
今日みたいに、自分自身を見てほしいと切実に思ったことはなかった。

「君が関心があるのは対鶴楼で、俺はその次だった」
「すみません。私、不器用なんです」

「知ってる」

真矢は、一度にあれもこれもと欲張れない性格だ。
そんな自分が仕事と恋の両方を手にしたくなるなんて、想像もしていなかった。

今日やっと、岳のそばで仕事と恋のふたつとも大切にしたいと覚悟を決めたのだ。


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