虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「遺書と手紙ですか?」
岳はピンとこないのだろう。それがどうしたといった態度だ。
「後の日付が有効だと、弁護士の先生にも確認していただいております」
叔母が自信たっぷりに口を挟んできた。いったい何の手紙なのか、真矢は全く知らないことだ。
「それによると、会長はお亡くなりになった社長に、こちらの鶴田陽依さんと岳の結婚を約束していたと……」
「はあ?」
社長の言葉を遮って、岳がひときわ大きな声を上げた。
「話にならない」
おまけに憮然とした表情だ。
「だが、鶴田家からは、婚約不履行になると申し入れがあった」
淡々としゃべる社長の言葉を聞いて、真矢は息が止まりそうになった。
岳が社長や会長と話し、叔母が割って入る展開が続くが、もう真矢の耳には何も入ってこない。
「とってもいいお嬢さんだから岳にピッタリだと思って、申し入れたんだよ」
「ありがたいお話でございます。うちの陽依を選んでくださって」
「おじいさん、そんな話は聞いていませんよ」
「メールでよろしくって伝えていただろう?」
「相手の名前すらありませんでしたよね」
「そうだったか?」
押し問答が続くが、答えは出ない。
「会長の独断ですから、この話はなかったことに」
岳が断ろうとしたら、叔母が手紙をバッグから取り出した。
「こちらがその手紙ですわ」
祖父の遺言状には婚約の文言などひとつもなかったはずだ。
あれほど大騒ぎしていた遺言を反故にしてまで、手紙を探し出したようだ。
つまり真矢が岳と暮らしながら仕事をしている間に、叔母たちは次の手を考えていたのだ。
陽依はそんなに岳と結婚したいのだろうか。真矢がやっとつかんだ幸せを壊したいのだろうか。
(どうしてこんなことに)