虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
真矢の心は乱れた。
陽依の自信満々な態度や叔母の威圧的な視線にさらされていると、鶴田家に引き取られた頃の気持ちを思い出す。
学校でも鶴田家でも、息を潜めていた日々。あの頃のどんよりとした気持ちがわき上がってくる。
(また私ががまんすればいいの?)
ギュッと手を握りしめても、暗い気持ちは拭い去れない。
(ここから逃げ出してしまいたい)
そう思って固く目をつぶったときだった。
冷たくこわばっていた手が、ふんわりと温かくなった。ハッと目を見開くと、岳が真矢の手を覆ってくれていた。
(岳さん)
そっと隣にいる岳をみたら「大丈夫」というようにうなずいている。
(そうだ。今は岳さんがそばにいる)
陽依からの強い視線を感じたが、もう気にならなかった。
あのころの真矢とは、何もかもが違っている。真矢は岳に微笑み返した。
「私は、都々木岳さんの妻になる日を楽しみにしておりました。まさか従姉妹にその座を奪われるなんて」
陽依はそう言って、悲しそうにうつむいている。誰が見ても同情を誘うような儚い美しさだ。
現に会長はよしよしと慰めている。その様子だけ見ると、まるで真矢のほうが岳を奪った悪者のようだ。
「もう一度、お考えいただけませんでしょうか。陽依との縁談を」
叔母は媚びるような視線を岳に向けながら言葉を続ける。
「もし陽依と結婚してくださるなら、対鶴楼の経営権は都々木様のものでございます」
あれほどこだわっていた経営権を手放す気になるなんて、真矢には信じられなかった。
そこまでしても、叔母は陽依と岳を結婚させたいのだ。
「つまり陽依さんと岳が結婚したら、対鶴楼の経営権は明都ホテルグループのものだというんだよ」
この話になるのを待っていたのか、会長が岳の方に身を乗り出してきた。
労せずして対鶴楼がその手に収まるのだから、結婚相手を考え直せと命じているようなものだ。