虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「え?」
叔父の言葉の意味がわからない。真矢だけでなく、この部屋にいる全員が疑問に思っているだろう。
「とにかく、落ち着こう」
「え、ええ」
岳が真矢に寄り添って、ソファーに座らせてくれた。それから叔父にも椅子に座るように促している。
部屋中が沈黙に包まれると、叔父はぽつぽつと過去の話をし始めた。
「あの日……結婚に反対された兄さんは、置手紙を残して家を出て行った」
それは、長い話だった。真矢の父が対鶴楼の後継ぎの座を捨てて、家を出た日からのことだった。
叔父が言うには、あとに残された自分には才覚もないし、社交も苦手だ。だから老舗旅館の経営なんてできないと思っていた。
嫁いできた女将は旅館の仕事が好きなようで、楽しそうに仕事をしていたから任せてしまった。
だが、楽しいだけで経営はできないと悟ったときには採算がとれなくなっていた。
経営が傾き始めたらあっという間だ。このままだと対鶴楼が倒産するんじゃないかと思うと、怖くてたまらなくなった。
それで「帰ってきてくれ。助けてくれ」と兄に頼んでしまったと、言葉に詰まりながら話してくれた。
「兄さんは対鶴楼に戻ると決めてくれたんだ」
どうやら真矢の両親が事故にあったのは、対鶴楼で話し合って東京に戻る途中だったそうだ。
それで事故のあと、両家の祖父たちが駆けつけてくれたのだ。
「私が頼んだからだ。私が兄さん夫婦を殺したようなものだ」
とうとう叔父は号泣してしまった。
おそらく真矢の両親が亡くなってからの長い年月、自分の心の中だけにしまい込んでいたのだろう。
その懺悔の気持ちが、岳の「家を出る」という言葉がきっかけになってあふれ出したのだ。