虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
亡くなった祖父の遺言状の内容を叔父が話しても、叔母は諦められないようだ。
「もともと兄さんに返そうと思っていた旅館だ。遅すぎるくらいだ」
「だって、うちの娘のほうが女将の仕事ができるわ。対鶴楼は陽依のものよ」
叔母は叔父にすがりついてまで、陽依が後継ぎだと言い張っている。
「もうやめて! もう聞きたくない!」
こんどは陽依がわめいた。
「お父さん、どうしてそんな過去のことを言いだしたの⁉ 事故にあうなんて、誰にも予想できないことなのに」
「これ以上、真矢の幸せを壊したくないだけだ」
「私だって幸せになりたいわ! どうして私のじゃまをするの!」
さっきまでのしおらしさは脱ぎ捨てたのか、大声で父親を責めている。
「私は対鶴楼の女将になるって決めてたのに!」
おまけに、般若のような恐ろしい顔をしている。
「ひどい!」
叫びながら、陽依は応接室を飛び出した。慌てて叔母が後を追って行く。
陽依の美しい笑顔に隠されていた激しい一面を見て、会長は驚いたようだ。
「陽依さんとの婚約の話は、なかったということでよろしいですか」
岳がきっぱりと言い切っても、ただうろたえている。
「あ、ああ。ボケてしまって、陽依さんに申し訳ないことをした」
そう謝りながらも、会長は自分が選んだのはあんな女性ではないとゴニョゴニョと言い訳している。
叔父は「こちらの不手際で申し訳ありません」とだけ言って頭を下げている。
両家が納得した形になったので、陽依との婚約不履行は問われないだろう。
叔父は叔母が持参していた手紙をくしゃくしゃにした。
岳はそれを受け取り、ご丁寧にシュレッダーにかけている。それほど気分を害していたようだ。