虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


「真矢」

気がつけば、真矢は岳に手を引かれたまま応接室から出ていた。

「大丈夫か」
「は、はい」

ここから先は、社長と叔父が話すことになると岳が教えてくれた。

「トラブルはあったが、対鶴楼を援助する計画は決まったんだ。安心してくれ」
「そうですね」

「今日のところは社長と支配人に任せて、俺たちは帰ろう」

「帰る……」
「俺たちの家に帰るんだ」

岳の言葉が、真矢の心に響いた。
ふたりの家。あそこは誰にもじゃまされない、ふたりだけの約束の場所。

「さあ」

改めて、お互いの指を絡めたふたりは歩き出す。ただそれだけで十分気持ちが伝わってくる。

「陽依が心配です」
「大丈夫だ。どこに行ったかは、確認が取れている」

この会社の出入りはチェックしているし、陽依が飛び出した後をスタッフが追ったという。

「何事もないよう、気をつけておくよ」

自棄になった陽依の行動まで、岳は心配してくれている。

「ありがとうございます」

「それに、彼女は俺と結婚したいんじゃないはずだ」
「え?」

「真矢に負けたくなくて、無理やり会長を説き伏せたんだろう」

陽依はてっきり岳のことが好きなんだと思っていた。

「ああいう目には慣れている」

これまで何度も見てきたと岳は言う。あれは明都ホテルグループの跡継ぎへの興味だけだったと岳は断言した。

「妙な遺言が彼女を惑わせてしまったとしか思えない」

岳がいてくれたから、真矢は何を聞かされても落ち着いていられた。
おかげで真実を知ることができたが、陽依にこの現実は受け止められないかもしれない。

対鶴楼への援助だとか、陽依か真矢の選ばれた方が後を継ぐなんて曖昧だった遺言の中身を考えてみると、真矢たちがどういう道を選ぶのか、祖父に試されていたようにも思えてくる。




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