虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます



町に戻って、対鶴楼の近くに家を借りて住み始めた。
そして仕事中は、叔父のことは「支配人」叔母のことは「女将」と呼んで立場をわきまえた。
身内という甘えを捨て、旅館を継ぐ気はないという意思表示だ。

そんな真矢に与えられた対鶴楼での肩書は「庶務」だ。

陽依は幼い頃から対鶴楼を継ぐために育てられているから、女将にふさわしいよう茶道や華道など稽古してきている。
真矢は高校時代に裏方の仕事をしただけだから、女将の手伝いなどできるはずがない。
陽依が母である女将とともに若女将として振る舞っているとき、真矢は仲居として働いた。
そのうえ事務仕事に慣れているだろうからと、宿泊予約や経理の仕事まで割り当てられた。
外国からの観光客が宿泊すれば、通訳としても駆り出される。つまり庶務とは何でも屋のことだった。

それでもこの一年、真矢なりに対鶴楼の将来を考えてきた。
父の生まれた土地で、長年にわたって大切にされてきた対鶴楼を失くしたくない。
自分に出来ることはないかと、市の観光課や若手の商店主たちと力を合わせながら試行錯誤の日々を送った。



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