虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


パーティーがお開きになって、とうとう真矢のホテルでの仕事も終わった。

「元気でね」
「また東京に来たときには声をかけてね」

「ありがとうございます。お世話になりました」

真矢の送別会は先日開いてもらっていたから、名残惜しいが同僚たちともお別れだ。

(パーティーが無事に終わってよかった)

上司にあいさつをしたり、会場の片付けをしていたスタッフたちにお礼を伝えたりして回った。
それからロッカールームに向かおうと思って歩き始めたとたん、老齢のご婦人がヨロヨロと化粧室に入るのが見えた。
胸を抑えて、今にも倒れそうになっている。
慌てて真矢も化粧室に入った。どうやら個室に入ったようだが、うめき声が聞こえる。

「失礼いたします。お客様、どうかなさいましたか」

軽くノックして声をかけると、とても苦しそうに顔をゆがめながら出てきた。

「あの、」

声を出すのも辛そうだ。

「人を呼びましょう」

真矢を見て少しホッとしたようだが、苦しそうなのに騒がれたくないと言う。
着ているものも上質だし、名家の婦人なのだろう。
体調不良を詮索されないため、人目につきたくないのかもしれない。

「バッグの中に薬が……」

どうやらトイレの個室にバッグを置いたままのようだ。

「失礼します」

真矢は断ってから、夫人の目の前でバッグを開けて薬を探した。
バッグの中には狭心症の薬があった。真矢の祖父も飲んでいたから、即効性があるのは知っている。
思ったとおり、婦人は薬を口に入れてからニ分もたたないうちに落ち着いてきた。

「ありがとう。おかげで助かったわ」
「痛みはありませんか?」

「もう大丈夫」

婦人は動けるというので、支えながら化粧室を出た。


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