虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「エレベーターのところで、知り合いが待っているはずなの」
言われるままにエレベーターホールまで付き添うと、婦人を探していたのか緊張した面持ちの男性たちがいる。
その中に、岳の姿もあった。この老婦人は、名のある方なのだろうと察した。
「奥様、お探しいたしました」
「ごめんなさい。チョッとね」
余計なことは言わずに、岳は婦人にサッと寄り添っている。
「お願いします」
真矢は岳に夫人を託して、エレベーターに乗り込むのを見送った。夫人が真矢を見て手を振りながらニッコリと微笑んでくれたので、もう大丈夫だろう。
ロッカーで私服に着替えてから、忘れ物がないか点検する。
もう思い残すことはないと、自分に言い聞かせた。
「お疲れさまでした」
通用口の守衛に挨拶して、外に出る。
ホテルの正面と違って裏口はそこまで明るくはない。花冷えのする季節だからか、夜の空気はひんやりと感じる。
真矢がつい足を止めていたら、背後から声をかけられた。
「君」
「はい?」
振り向くと、さっき老婦人を預けた岳が立っていた。なにか粗相があったかとドキッとする。