このほど、辣腕御曹司と花嫁契約いたしまして
「都々木部長、お、お疲れさまです」
緊張したせいか、口ごもってしまった。
「エレベーターホールで会ったのは、君だね」
「はい。宴会企画部の鶴田真矢と申します」
「先ほどのことだが」
「あ、あの、化粧室におられた方のことでしょうか」
婦人の体調がよくないのかと、ドキドキしながら岳の顔を見上げる。
遠くから見ているよりずっと岳の背は高いようで、真矢はやっと胸の位置に届くくらいだ。
「お客様からくれぐれもよろしくとのことだ。本当にありがとう」
経営企画部長に直接お礼を言われて、真矢はうろたえた。
「そんなたいしたことをしていませんので」
そう答えると、岳の表情はグッと柔らかくなった。
クールな人かと思っていたが、目が細められただけで別人のように優し気だ。
「助かった。とても大切なお客様だったから」
「よかったです」
初めて真矢と岳の視線がパチリとあった。まるでパズルのピースがはまったような不思議な感覚だ。
恥ずかしくもあったが、岳の涼し気な目元を思わず見つめてしまった。
「君は、パーティー会場にいたね」
「はい」
「今日はご苦労さま。とてもスムーズな進行だった」
「ありがとうございます」
真矢は温かい言葉をかけられて、岳を前にした緊張が少しずつほぐれていくのを感じた。
「最後の仕事だから……喜んでいただけでよかった」
気が緩んだのか、真矢の口から思わずポロリと本音がこぼれてしまった。