虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます



今度は宿泊予約、スタッフのシフトの確認作業だ。

祖父の代から対鶴楼に勤めてくれていたベテランはほとんど退職している。
定年後に残ってくれた人もいるが、病欠したり長時間は働けなかったりで欠員が多い状況だ。
真矢に出来ることは手伝っているが、すべてをカバーすることは難しい。

このところ経理の仕事も加わったので、経営の問題点についても目につくようになってきた。
叔父夫婦は昔ながらの格調ある対鶴楼をどうしても維持したいのだろうが、広大な庭や古い建物の維持管理だけでも大変な費用がかかっている。
現状ではどんどん正社員は少なくなって、パート従業員のおかげでなんとか業務が回っているありさまだ。
最低の人数で旅館を切り盛りしていける方法を考えないと、いずれは破綻するだろう。

たとえば客室の稼働率を上げるためには、料金を様々なケースに対応して変更した方がいい気がする。
値段を下げて部屋での食事をやめるとか、宿泊だけの客も受け入れたらと支配人に提案しても、ろくに話を聞いてもらえない。
経営の話になると黙り込んでしまい、機嫌を悪くした女将に打ち切られるのがいつものことだ。
祖父の遺言に『陽依か真矢のどちらか選ばれた方が対鶴楼を継ぐように』とあったから、真矢の口出しをよく思っていないのだろう。

誰に選ばれるかもわからない遺言なんて、真矢にはどうでもよかった。

真矢は対鶴楼が継ぎたいわけでも、財産が欲しいわけでもない。
父が生まれ育った家だから、この先もずっと旅館が続けられるように守っていきたいだけだ。
「対鶴楼を継ぐ気はない。経営が心配なだけ」と、なんど訴えても信じてもらえない。
叔父夫婦にとって、真矢は都合のいい働き手でしかないようだ。





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