虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


翌日。和文字堂の見学に行く宿泊客たちを真矢がロビーで待っていたら、陽依がやってきた。
着物姿であふれんばかりのアイリスを抱えている。これからロビーの大きな花瓶に活けるのだ。

せっかくならロビーに客が多い時間帯に花を活けることを勧めたのは真矢だ。
少し暗い受付付近が、ぐっと華やいで豪奢な雰囲気になるからだ。陽依は結婚相手を探している最中だから、こういった目立つパフォーマンスはすんなりと受け入れてくれた。
実際これがきっかけで、縁談がいくつも舞い込んでいるらしい。

「真矢、制服でどこに行くの」
「和文字堂よ」

今日の真矢は千鳥格子のベストに紺のスカートという事務職の制服姿だ。
髪はきつくまとめずに、低めの位置でハーフアップにしている。

「外国からのお客様に和菓子作りを見学していただこうと思って」
「ご苦労さま」

和文字堂と聞いて、陽依はぞんざいな言い方だ。真矢の母の実家だが、親戚とは思っていないのだろう。

「陽依、この前話した……」
「ここでは若女将と呼んで」

「若女将、ロビーの喫茶室のメニューのことですが」

「あ、あれね。女将がむりだって言ってたわ」

真矢は以前から、若い人向けのカフェメニューを増やそうと陽依に相談していた。
対鶴楼の喫茶室では昔からコーヒーか紅茶しかないので、若い年齢層には不評だった。
わざわざ近くのカフェまで出かける不便さを解消したかったが、却下されてしまった。



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