虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます



またなにかお客様のために考えなければと思っていたら、岳の姿が見えた。外国人観光客と一緒で、楽しそうに話している。
和文字堂の見学に行くのは、アメリカからもう何度も日本に訪れている年配のご夫婦、それにイギリス人の若いカップルだ。

「お出かけでございますか?」

陽依も岳に気がついたようだ。
真矢と話す時とは別人のように華やいだ声で話しかけている。

「少し出かけてきます」

岳は陽依に素っ気なく答えているから驚いた。

子どものころから、陽依は周囲の人に愛される存在だった。真矢の周りでは誰もが陽依に優しく話しかけるのだが、どうやら岳は違っている。笑顔のひとつも陽依に向けていないのだ。

「本日ご案内させていただきます、鶴田真矢と申します。よろしくお願いいたします」

観光客に向かって挨拶をしてから、正面玄関を指す。

「では、参りましょう」

見学客を案内して玄関へ向かい始めたら、陽依まで付いてくる。
あっさりとした岳の態度が物足りなかったのか、陽依は珍しく玄関先まで見送りに出てきた。

「いってらっしゃいませ」

その声が、いつもよりずっと甘い響きに聞こえたのは気のせいだろうか。

岳は地味な服装にしていても、オーラは隠せないし目立っている。
肩書を知らなくても魅力的に映るのだから、もし岳が明都ホテルグループの御曹司だと知ったら、陽依はどうするだろう。
どんな縁談が届いているかは知らないが、陽依の性格なら岳をターゲットに選んだら積極的にアプローチするはずだ。
そうなったら、岳は美しい陽依を選ぶだろうか。

そんなことを考えた真矢の胸は、チクリと痛んだ。



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