虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


「この縁談はともかく、岳はいつになったら家庭を持つ気だ?」

探るような父の言葉に、岳はまたかと眉を寄せた。

岳はそろそろ三十五になるが、いまだに婚約者や特定の恋人はいない。
アメリカでの生活が長かったのと仕事が忙しくて出会うチャンスがなかったせいでもあるが、結婚なんてまだ先でいいと思っている。

これまでも裕福な家柄の女性や、仕事上の付き合いのある女性から様々なアプローチがあったが丁重に断ってきたぐらいだ。
対鶴楼を買収するからといって、わざわざ地方の旅館と縁を結ぶ必要はない。かつては素封家だったとはいえ、今は借金を抱えているはずだ。祖父から縁談を持ちかけたのかもしれないが、岳にとってはありがた迷惑な話だ。

「お兄さんは働きすぎなのよ。早く結婚してくれないと、私まで行き遅れちゃうわ」

華怜が大げさに嘆くような芝居をしてみせたので、岳はチラリと華怜に視線を向けた。
三十を目前にした華怜は、長男が先に結婚してくれないと困ると言いたいのだろう。

「そんな怖い顔しないでよ」
「これは生まれつきだ」

岳は整った顔立ちとはいえ、切れ長の目元と薄い唇が冷酷そうに見えるらしい。
それに学生時代にラグビーで鍛えたたくましい体格の持ち主だ。身長は百八十センチを超えているし、オーダースーツを着ていても胸板の厚さは十分わかる。実際に黒っぽいスーツ姿でホテルの入口にいたら、要人警護をしていると間違われたこともある。

華怜からは「笑顔の練習をしろ」といわれるくらい、仕事場での岳に愛想はない。
それでも結婚したがる女性が後を絶たないのは「御曹司の妻」の座が、よほど魅力的なのだろう。


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