虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます



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岳はうれしい驚きを感じていた。
真矢は対鶴楼のために色々な可能性を考えていたようで、次々にアイデアを話してくれた。
たしかに観光だけなら宿泊も限定的になるが、長期の滞在が可能になって様々な体験ができるなら、町に興味を持ってくれる人は広がっていく。
優雅なひとときを楽しむ高級旅館もいいが、色々なテイストの宿泊施設あればたくさんの人が訪れるかもしれない。

どうやら真矢は現在だけでなく、もっと先も考えているのだろう。
なんとなく岳の中で、十年先を見越している父と真矢が重なった。真矢にも経営のセンスがありそうだ。
それにこの町を高齢者だけでなく、若い人にとっても住みやすい場所にしていきたいという熱意も感じられた。

町の将来まで見据えるとなると、単なる旅館の買収話ではすまされなくなってくる。
真矢は飲食関係などのサービス業、そして様々な工房まで需要が広がっていく夢を持っているようだ。
それがきっかけでこの町や近隣への移住者が増えたら、地域にとってプラスになるという構想だ。

この話は、町の活性化と対鶴楼を今後どうするかがリンクしている。
熱心なふたりの会話には、ロマンもなにもない。仕事がらみのことばかりだが、岳は真矢と話すのが楽しかった。
真矢の瞳も輝いていて、仲居の仕事をしているときより生き生きとしている。

「理想が実現できるかどうかはわからないが、君はこの町が好きなんだね」
「え?」

「町の将来を真剣に考えているから、よほど思い入れがあるんだろう」

思ったままを口にしたら、真矢の表情が見る見るうちに曇っていった。
この町が好きだからこそ、未来を見据えて考えていると思っていたが違うようだ。

「いえ、とくに好きなわけでは……」




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