虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
真矢の驚いた表情からみて、この町が好きか嫌いかなんて考えたことすらなかったようだ。
他人に指摘されて初めて気がつくこともあるが、真矢にとっては触れられたくない言葉だったのかもしれない。
「この町に長く住んでいるわけではないので」
真矢がポツリとつぶやくように言った。
「そうか」
「私はただ、この狭い町でも深く生きることはできるんだなと気がついただけです」
「深く?」
岳がのぞき込むように真矢の顔を見たら、さっきの苦いものを飲み込んだ顔ではなかった。
覚悟を決めたように、きりりと引き締まっている。
広い視野を持っていても浅く生きてはつまらない。この町だからこそ、狭くても深く生きる方法があるはず。
そう話す真矢は、東京とこの町の両方で暮らして感じたという。
まだ若いのに、真矢がそんなことを考えているのが不思議な気がする。いったいどんな経験をしてきたのだろう。
もっと彼女の話を聞いてみたい気もしたが、これ以上踏み込んではいけないと岳はブレーキをかけた。
友人でも、ましてや恋人でもないのだから無粋というものだろう。
「さっき話してくれた空き家を対鶴楼の別館にすること、企画書としてまとめてくれるか?」
意識して、まるで部下に対するような言い方にしてみた。
かつて明都ホテルにいたとしても、今は対鶴楼の社員だ。それでも真矢なら要望に応えてくれるはずだ。