虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
まだ真矢には話せない。だがこちらから指名すれば、彼女も対鶴楼側のスタッフとして加えられるはずだ。
「君と一緒に仕事できるといいんだが」
そう言って真矢の顔を見たら、目を丸くしていた。
「よかったら、明都ホテルに戻って来てほしいな」
少しほのめかしてみたが、真矢はきっぱりと断ってきた。
「いえ、私は対鶴楼の仲居です」
真矢なら再び明都ホテルグループに戻っても、どんな部署でも十分に働ける気がする。
復帰してくれるようなら、受け入れたい。
仕事相手とはいえ、岳が女性に対してここまで好感を持ったのはいつ以来だろうか。
祖父が持ち込んだ縁談もやっかいだが、このまま自分の結婚相手を勝手に決められたくはない。
今の岳は艶やかな若女将より、目の前にいる鶴田真矢という女性が気になって仕方なかった。
あの夜は「がんばれって言ってもらえませんか?」と悲しげに言っていたのに、今では岳の目をひきつける魅力的な女性に成長している。
店を出てから、人目につきたくない真矢とは対鶴楼から離れた場所で別れることにした。
「ではここで、失礼いたします」
「また、会おう」
真矢はまた会えるなんて思ってもいないのか、これで最後というくらい丁寧に頭を下げてくれた。
岳は終わらせるつもりなどさらさらない。真矢との関係は始まったばかり。これから本番だと、気を引き締めていた。