虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
でも今は、鎧なんて必要ない。真矢には父が生まれた家でもある「対鶴楼を守る」という信念がある。
あの町は真矢にとって大切な場所だ。祖父が遺した遺言のこともあって、今すぐには対鶴楼から離れられない。
「叔父さんの旅館で働いているとなると、辞めにくいか」
「ずっと旅館で働くの? ホテルのほうが向いてない?」
あれこれと詮索されたが、真矢は軽く受け流していた。
同期たちもホテル業界にいるから、いやでも対鶴楼の現状は耳に入っているはずだ。
今は後継者不足や老朽化で老舗旅館は減少していく時代だ。
対鶴楼も例外ではなく、旅館として生き残れるのか、経営不振に陥るのかの正念場を迎えている。
明都ホテルグループの御曹司である岳が宿泊したのも、きっとなにか思惑があってに違いない。
この前ははぐらかされたが、真矢はちゃんとした理由を知りたかった。
久しぶりの東京は、真矢を感傷的にさせる。大都会にいると、力のない自分を思い知らされるようだ。
お昼からの披露宴だったから、二次会といってもまだ夕陽が差し込み始めたばかりだ。
テラス席からは渋谷の風景がよく見えるし、蒸し暑くもなく心地よい風が通っていた。
早くから飲んでいたからか、参加者はほろ酔い状態の人ばかり。
真矢も頬が少し熱くなってきたなと思い始めたとき、スマートフォンに着信があった。
(都々木部長?)