虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
着信は都々木岳からだった。
どうしてと思ったが、ほんわりと酔いを感じる頭では考えがまとまらない。
(まさか、電話がかかってくるなんて)
町を案内するときに、念のために交お互いの連絡先を交換していた。
岳が東京に帰って二週間は経っているから、今になって電話がかかってくる理由がわからない。真矢はドキドキしながら電話に出てみた。
「もしもし」
『都々木だ。突然にすまない』
「い、いえ。なにかありましたか?」
『昨日、仕事で対鶴楼に行った』
いつもの岳らしくない不機嫌な口調だ。
『君はいなかった』
「仕事」という単語が聞こえても、真矢にはピンとこない。
岳から依頼された書類はまとめているが、いつまでにとは聞いていなかった。
「私、昨日から東京に来ているんです」
『和文字堂の遠藤和真君に聞いたよ。いまどこ?』
「恵比寿です」
『わかった。これから会えるかな?』
「え?」
『迎えをやるから、場所を詳しく教えて』
「あ、あの……」
真矢は岳の勢いに押されて、ビルの名前と大まかな住所を伝えた。
電話を切ってからも『仕事で対鶴楼に行った』という言葉が耳から離れない。
真矢は何も聞いていなかったが、このところ女将たちの様子がおかしかったことと関係しているのだろうか。
真矢の心の中では、あれこれと疑問が湧きあがっていた。